脳卒中センター


脳卒中センター
脳神経血管内治療科
スタッフ

脳卒中の早期回復と予後の改善を目指して

 当院の脳卒中センターは 2007年に設立され、一次脳卒中センター (Primary Stroke Center; PSC) として認定を受けています。私たちは、脳卒中専門治療を24時間365日体制で提供しており、多職種からなる専門チームが迅速かつ高度な集学的治療を行い、患者様の早期回復と長期的な予後の改善を支援しています。



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<脳卒中センター> 3階東病棟にあります



診療内容

<超急性期治療>

脳卒中の急性期治療は脳障害の進行を防止することが重要で、速やかな対応が求められます。例えば脳梗塞では、経静脈的血栓溶解療法(rt-PA 静注療法)は発症後4.5時間以内に開始しなければなりません。脳の主要な血管が閉塞している場合には、迅速な機械的血栓回収療法(カテーテル治療)が必要なことがあります。生命の危険性が差し迫っている場合には、緊急外科手術が必要となることもあります。私たちは患者様の機能予後を改善するために、薬物療法、カテーテル治療、外科手術といった幅広い治療オプションをいつでも迅速に行うことが可能です。



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<機械的血栓回収療法による血管の開通と回収された血栓>

<入院後の治療>

脳卒中は、脳のみならず全身に影響を与えます。呼吸状態や血圧は不安定となり、感染症のリスクも高まっています。麻痺や筋力低下による身体機能の低下も見られます。これは特に高齢の患者様に顕著です。
当センターは12床の脳卒中ケアユニット(Stroke Care Unit; SCU)を有しています。ここでは看護師が頻繁な観察とケアを行い、患者様の微細な変化に医師と共に迅速に対応します。また、毎日のカンファレンスを通じて、患者様のその時々に最適な治療を提供しています。例えば、栄養は全身状態の改善・安定に非常に重要な要素ですが、言語療法士と看護師が協力して患者様の食事のサポートを行い、栄養士が個々の状況に合わせた食事内容を提案します。麻痺や全身の筋力低下には早期のリハビリテーションが重要ですが、理学療法、作業療法、言語療法を超早期から包括的かつ積極的に提供しています。さらに、脳卒中専門医が原因検索と適切な再発予防治療を実施します。



<カンファレンス風景>
カンファレンス風景.jpg 毎朝、脳卒中センター入院中全患者の状態を確認します。各科医師・看護師・リハビリテーション・栄養士・ソーシャルワーカーがそれぞれの立場から意見し方針を決定します。










<退院支援>

患者様が退院される際には多面的なサポートが必要となります。回復期リハビリテーション病院等への転院支援から自宅退院後のサービス調整まで、ソーシャルワーカーが患者様とご家族のニーズに応じた地域の関係機関との連携を取ります。
また、脳卒中後の患者様は退院後の不安が強いと思います。脳卒中療養相談士が「脳卒中相談窓口」において、脳卒中の医療や介護、予防や後遺症、退院後の生活に関する様々なご相談に応じます。

【脳卒中相談窓口】

外来1階 医療連携室内
電 話 :03-5725-6474
相談時間:平日 9:00~17:00

診療実績



内 容 2023
入院診療実績
 脳梗塞(発症 7 日以内) 306
 脳内出血(発症 7 日以内) 93
 くも膜下出血(発症 7 日以内) 21
 上記以外の急性期脳卒中(発症 7 日以内) 4
 一過性脳虚血発作(発症 7 日以内) 19
外科・介入治療実績
 rt-PA 静注療法単独 15
 機械的血栓回収療法(tPA事前投与も含む) 45
 開頭脳内血腫除去術 6
 内視鏡下脳内血腫除去術 12
 脳梗塞に対する外減圧術 4
 リハビリテーション新規患者数(急性期リハ患者数) 458




低侵襲・先端医療への取り組み

 脳神経血管内治療科は、脳神経血管内治療研修施設として年間約120件の治療を実施しています。頭頸部および脊椎脊髄の血管病変を対象にし、稀で高度な知識・技術を要する病変治療も行っております。当部門は低侵襲と先端治療を治療コンセプトに掲げており、カテーテル治療をさらに発展させ、最新の治療デバイスを駆使して、患者様にできる限り負担の少ない治療を提供していきたいと考えております。

診療内容

<特 徴>

脳のカテーテル治療は太ももの付け根からアプローチ(大腿動脈アプローチ)することが一般的ですが、当科では全国ではまだ少ない手首からのアプローチ(橈骨動脈アプローチ)を第一選択としています。全国調査でも第一選択にしている施設は数%のみで、当施設は橈骨動脈アプローチを全国に普及すべく、講演会活動や教育活動を積極的に行っております。
このアプローチの利点は、穿刺部合併症が少ないということです。そのため、術後の安静時間が短縮され、カテーテル検査は日帰り、カテーテル治療でも治療当日から歩行可能で食事もでき、最短で翌日に退院することが可能となります。(術後の状態によるので必ずしもこの限りではありません)



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遠位橈骨動脈アプローチと止血



<対象疾患>

脳動脈瘤・頚動脈狭窄症・急性期脳梗塞・脳腫瘍や慢性硬膜下血腫などの塞栓術
硬膜動静脈瘻・脳動静脈奇形など頭頸部血管が原因の疾患全てを対象とします。




脳動脈瘤

脳動脈瘤は、脳血管の壁が膨らんで嚢状になる状態です。治療には、頭蓋骨を開けて、動脈瘤の根元をクリップで挟む開頭クリッピング術と、我々が得意としているコイルやステントを使って動脈瘤を治療するカテーテル治療の2つの方法があります。脳動脈瘤は破裂しているかどうかによっても治療戦略が少し異なります。以下はカテーテル治療の方法について説明します。

<未破裂脳動脈瘤の場合>
未破裂脳動脈瘤は通常症状はありませんが、大きいものや目の神経に接しているものは、物が二重に見えたり(複視)、視力障害が起きることがあります。動脈瘤のサイズや形状、場所などから破裂の危険性を判断し、治療に伴う合併症リスクを上回る場合に治療が考慮されます。退院後はすぐに元の生活に戻れます。

<破裂脳動脈瘤の場合>
脳動脈瘤が破裂すると、くも膜下出血という状態になり、突然の激しい頭痛や嘔吐、重症の場合は麻痺や意識障害が起こります。この場合、再出血を防ぐために早急な治療が必要です。未破裂の場合と違い、緊急のため事前準備ができていないことや、生体反応で血液が固まりやすい状況などから、カテーテル治療の場合はコイル塞栓術を行い、ステントを用いた治療は行いません。
脳動脈瘤治療後も追加の治療やリハビリテーションも行うため入院期間は 1ヶ月程度で、その後も自宅での療養やリハビリ施設等への転院が必要となることが多いです。




コイル塞栓術

プラチナでできたコイルを動脈瘤内に充填する方法です。コイルを動脈瘤内に収めるために、ステントと呼ばれる網目状の金属の筒を使用することもあります。



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治療前 コイル塞栓術 治療後



フローダイバーター留置術

フローダイバーターステントは、非常に網目の細かいステントで、留置するだけで動脈瘤への血流が減少し動脈瘤が破裂しづらくなります。すぐには治りませんが、半年から1年程度で概ね治癒します。従来、治療が難しいとされてきた大きな動脈瘤や複雑な形の動脈瘤などにも有効です。



フローダイバーター留置術_1.jpg フローダイバーター留置術_2.jpg フローダイバーター留置術_3.jpg
治療前 フローダイバーター 6ヶ月後



頚動脈狭窄症

頚動脈狭窄症は脳梗塞の原因となる病気で、基本的には薬物療法が行われますが、狭窄が高度な場合には血行再建治療が必要です。血行再建治療には、頚動脈を切開する内膜剥離術とカテーテル治療であるステント留置術があります。全身状態や血管の状態によって適切な治療法を選択します。
ステント留置術も退院後の自宅安静は不要で、通常すぐに元の生活に戻れます。頭蓋内の脳動脈狭窄症についても、薬物療法で症状が進行する場合には、バルーンによる血管拡張やステント留置術が行われます。




頚動脈ステント留置術

頚動脈ステント留置術は、頚動脈にたまったプラークをステントで押さえつけて飛び散らないようにして脳梗塞を予防する方法です。血管狭窄による血流低下に対しても改善が得られます。局所麻酔で行うこともできます。



頚動脈ステント留置術_1.png 頚動脈ステント留置術_2.png 頚動脈ステント留置術_3.png



急性期脳梗塞

急性期脳梗塞は、動脈硬化や心臓の不整脈が原因で脳の動脈が詰まり、脳細胞が壊死する病気です。突然、片側の手足や顔面の麻痺・しびれ、言葉が出にくい(失語症)、呂律が回らないなどの症状があらわれ、重症になると意識障害となります。発症後すぐに治療を開始することが最も重要で、発症超急性期 (4.5 時間以内) には、点滴で血栓を溶かすrt-PA静注療法を行います。また、脳の太い血管が閉塞している場合には特に重篤になりやすく、この場合にはカテーテルを使って閉塞部位にアプローチし、血栓を取り除いて血管を再開通させる血栓回収療法を行います。血栓回収療法も1分1秒でも早く行うことが重要ですが、発症 4.5 時間以内に来院されていない患者様にも、それ以上の脳梗塞進行予防のために治療を行うことが可能です。



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治療前 血栓回収療法
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治療後 血栓



硬膜動静脈瘻

急硬膜動静脈瘻は、脳を包む膜(硬膜)にできる動脈と静脈が異常につながっている状態で、治療には高度な専門知識と技術が必要な疾患です。これが原因で脳出血や脳腫脹などが起こり、耳鳴りや目の症状(充血、むくみ、物が二重に見える)、意識障害などの症状がでることがあります。カテーテルを使って動脈や静脈から病変部にアプローチし、コイルや液体の塞栓物質(OnyxやNBCA)を用いて異常なつながりを閉塞します。



硬膜動静脈瘻_1.png 硬膜動静脈瘻_2.png 硬膜動静脈瘻_3.png
治療前 ONYXによる血栓 治療後



脳動静脈奇形

脳動静脈奇形は脳の中で動脈と静脈が異常につながっている状態で、治療には高度な専門知識と技術が必要な疾患です。これが原因で脳出血やくも膜下出血などが起こり、頭痛やてんかん発作、麻痺などの症状がでることがあります。出血した場合や、未出血でも安全に治療できる場合は治療を検討します。治療方法には、開頭手術、カテーテル治療、放射線治療があり、最も有効な方法を組み合わせながら選びます。



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治療前 ONYX、NBCAによる血栓 治療後



診療スタッフ

診療科長 田之上 俊介 qrcode.png



外来診療日 (脳血管内治療専門外来)

毎週木曜日 午後 14:00 -
第4金曜日 終日



診療実績 (2022年度・2023年度)



手術内容 2022 2023
 脳動脈瘤 40 40
 頸動脈狭窄症 13 13
 頭蓋内動脈狭窄症 1 2
 脳脊髄硬膜動静脈瘻 2 4
 急性期脳梗塞 32 43
 頭頸部脊髄腫瘍 5 0
 その他 39 19
132 121



 

発表論文 (2023年度)



1 1. Tanoue S, Ono K, Toyooka T, Nakagawa M, Wada K. Carotid Artery Stenting via Radial Access with Modified Flow Reversal Method: Case Series. World Neurosurgery. 2024
2 2. Tanoue S, Ono K, Toyooka T, Nakagawa M, Wada K. Feasibility and Challenges of Transradial Approach in Neuroendovascular Therapy: A Retrospective Observational Study. J Neuroendovascular Ther. 2024
3 3. Tanoue S, Ono K, Toyooka T, Okawa H, Wada K, Shirotani T. The Short-Term Outcome of Middle Meningeal Artery Embolization for Chronic Subdural Hematoma with Mild Symptom: Case Series. World Neurosurgery. 2023


スタッフ



センター長 小野 健一郎
副センター長 大川 英徳
脳卒中内科 村田 喜代子(診療科長)・清塚 鉄人・岩本 康之介
脳神経血管内治療科 田之上 俊介(診療科長)
脳卒中外科 小野 健一郎(兼)・大川 英徳・田之上 俊介(兼)・大塚 陽平・奥澤 惇
リハビリテーション科 岩本 康之介(兼)・鴻 真一郎(リハビリテーション技術科長)
看護部 高力 むつみ(脳卒中リハビリテーション看護認定看護師・3階東病棟師長)
栄養科 上田平 まりな・小暮 和泉
脳卒中療養相談士 高力 むつみ(兼)・小田 千里(ソーシャルワーカー)