当科は平成21年7月に虎の門病院の支援のもと、新設されました。同院関係者ならびに当院の患者背景地域である目黒・世田谷区の医療関係者および地域の皆様に感謝を申し上げるとともに、これからも当院周辺の皆様方に安心して受診して頂き、質の良い医療を提供することで還元できるよう努めてまいります。
白血病、骨髄異形成症候群、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫、骨髄増殖性疾患(真性多血症、本態性血小板血症、骨髄線維症など)などの造血器腫瘍に対して、標準的な薬物療法(抗がん剤や分子標的治療薬等)を行っています。また同種造血細胞移植の対象となる場合は主に虎の門病院本院または分院に紹介させていただき、同院とは常に連携して治療を実施しています。その他、再生不良性貧血、特発性血小板減少性紫斑病、骨髄線維症、自己免疫性溶血性貧血そして発作性夜間血色素尿症などのいわゆる難病指定に相当する血液疾患の診療も行っています。
疾患により受けていただく検査は異なりますが、概ね以下の検査が主となります。
・血液検査(血算、生化学、他染色体やウイルス・遺伝子変異等の特殊検査など)
・骨髄検査(骨髄像、染色体、遺伝子変異など)
・画像検査(レントゲン、CT、MRI、 *PET-CT:他院に依頼 )
・生理検査(心電図、超音波検査)
・造血器腫瘍の生検による組織採取(表在のリンパ節生検、消化管内視鏡検査、外科的組織の摘出など)
当科では日本血液学会のガイドラインに準じ、科学的根拠に基づいた標準的な治療を行っています。当然ながら、個々の患者様の年齢や疾患の状態・併存症や社会的背景を元に治療法(薬剤の種類とその用量)を考慮し、治療を勧めさせて頂きます。また治療に際しては、入院または外来いずれの治療においても患者様やそのご家族の希望に応じて柔軟に対応してまいります。尚、造血幹細胞移植やCAR-T療法などの免疫細胞療法については、その状況に応じて他院(虎の門病院本院・分院が最多)に紹介させて戴いています。
入院病床:15~25床
・無菌病床:2床
・化学療法室(共有設備):5床
・外来では輸血療法も行っています。
当院ではご紹介患者のスムーズな受診を心がけております。当院へご紹介いただく際には、地域医療連携室を介して予約をお取りくださいますようお願いします。お急ぎの場合も同様で患者さんの病状次第では当日(平日に限ります)対応も可能な限り、受けるよう努めてまいります。
・前医からの紹介状(診療情報提供書)と検査データ(採血や画像)をご持参下さい。
・当日受診も適宜、受付いたします。
・お薬手帳があれば、服用薬の詳細がわかりますので、ご持参下さい。
・他院からの転院を希望される場合、担当医と相談の上、医療連携室を介して予約を取得していただくこととなります。 (緊急を要する場合も同様に担当医から直接、 医療連携室または当科医師までご連絡をいただくこととなります)
当科では、血液疾患や合併症に対する診断・治療をよりよくするため、さまざまな臨床研究と解析を行い学会又は学会誌等への報告を行っています。これらの臨床研究は全て保険診療範囲内で最善を尽くして行われた治療であり、治験薬を使用するものではありません。詳細な臨床経過のデータ解析を行い、あくまで今後の臨床に役立てることを目的としたもので、個人名を公表することは一切ありません。 もし、疑問やご質問等がございましたら、担当医までご相談ください。
発症から治療前検査について
悪性リンパ腫は、白血球のうちリンパ球が悪性に変わる病気です。その種類は大きく分けても20種類以上のタイプ(組織型)に及び、それぞれの種類によって治療法と予後が大きく異なります。症状は頚部や腋下、鼠径部などのリンパ節が腫れる以外にも、胃や腹腔内、頭蓋内そして皮膚などにも急速に出現し、発熱、夜間寝汗など様々な症状が現れることもあります。ほとんどの場合、組織型を確定するために生検(組織の採取)が行われます。腫大したリンパ節などの組織を採取し、組織診断、染色体や遺伝子解析(検査会社に委託)を行います。その他、病気の広がりを調べるためにCTやPET-CTなどの画像検査、必要に応じて内視鏡検査や骨髄検査などが行われます。
治療について
治療法についてはごく稀に早期単発の場合に放射線治療を行うこともありますが、多くは抗がん剤を多剤併用した化学療法が主となります。悪性リンパ腫は他の癌と異なり、化学療法が奏功する割合が高く(全体として50~70%程度)、ファーストラインの治療のみで寛解に到達、そのまま無治療のまま維持できるケースが多くあります。しかしながら再発するケースも決して少なくはなく、抗がん剤治療後に大量化学療法+自家造血幹細胞移植を行うこともあります。また抗がん剤が効かないケースでは、同種造血幹細胞移植(骨髄、末梢血、臍帯血)やCART細胞療法を行うこともあります。詳細な治療方針については治療担当医から説明いたします。
診断について
白血病とは、血液中の細胞の一種である白血球ががん化する病気のことで、いわゆる「血液のがん」と呼ばれるがんの1つです。白血病には、突然発症してさまざまな症状を引き起こすタイプの急性白血病や、重篤な症状はないものの数年にわたって進展するタイプの慢性白血病があります。また、白血病は血液細胞の基となる骨髄中の造血幹細胞のうち、骨髄系の細胞によって引き起こされる「骨髄性」と、リンパ系由来の細胞によって引き起こされる「リンパ性」に分類されます。末梢血液と合わせて骨髄検査により骨髄液を採取して、その細胞標本と染色体/遺伝子解析を行い、診断を進めてゆきます。
治療について
かつてと比べて白血病患者の治療成績は大きく向上しています。しかし、そのタイプによっては治療の効果が得られず、命を落とすケースも少なくありません。悪性リンパ腫同様に治療抵抗性あるいは一旦、良くなったにも拘わらず再発した場合には、同種造血幹細胞移植(骨髄、末梢血、臍帯血)を選択する場合があります。
概要
多発性骨髄腫は血液細胞の一つである「形質細胞」ががん化することで起こる疾患です。形質細胞は、白血球の中のリンパ球のうち、B細胞から分化(未熟な細胞が成熟した細胞になること)した細胞で、体内に侵入してきた病原菌やウイルスなどの異物と戦うためのタンパク質である「抗体」をつくり、感染や病気から体を守ります。しかし、形質細胞ががん化して異常細胞(骨髄腫細胞)になると、異物を攻撃する能力がない、役に立たない抗体(Mタンパク)をつくり続けます。骨髄腫細胞が骨髄の中で増殖し、造られたMタンパクが血液や臓器の中へ蓄積されていくことで、全身に様々な症状を引き起こします。代表的な症状として骨折に伴う疼痛、動悸・息切れなどの貧血症状、腎障害、Caの異常高値に伴う食思不振などがあります。
治療について
初回から抗がん剤による化学療法が中心となります。年齢や合併症などの条件から、自家造血幹細胞移植ができる(移植適応)場合は、化学療法に続いて大量化学療法+自家造血幹細胞移植を行い、できない場合は、通常の化学療法を継続します。
治療成績
最近20年の間で多くの新薬が登場したため、かつてより大きく成績は向上しました。しかしながら依然その多くは高齢者に発症する疾患であり、それぞれのステージによりその成績は異なりますが、概ね5年生存率は約40%と言われています。
これまでに記載したもの以外にも、疾患は多岐に渡ります。白血球を含めた3種類の血球減少を来す再生不良性貧血、過剰な自己免疫反応によって起こる溶血性貧血や特発性血小板減少性紫斑病、そして(骨髄中の)造血幹細胞の変異に伴い徐々にがん化する可能性がある骨髄異形成症候群などがあります。また、逆に血球が増加する疾患として、多血症(ストレス性と真性)、骨髄線維症、本態性血小板血症などがあり、これらは総称として骨髄増殖性疾患と言われています。ここに記載した疾患の大半が初期は無症状のことが多く、健康診断などで異常を指摘されて紹介受診される方がほとんどです。診断には造血の大元である骨髄の状態を知る必要があります。ゆえに、骨髄検査を行うケースが殆どです。
腫瘍があると思われるリンパ節、骨髄検体或いは臓器などから採取された細胞や組織を病理標本に作製し、最終的に顕微鏡で観察してどのような病気であるかを診断します(隣接する自衛隊中央病院に依頼)。その病気の種類にもよりますが約1から2週間の日数を要します。
血液や骨髄検査などの細胞を培養して染色体の数や構造を分析する検査です。先天異常や悪性腫瘍の診断や悪性度について解析を行います(検査会社に委託)。結果が判明するまで約2週間の日数を要します。
悪性リンパ腫などの血液腫瘍は、まれにリンパ節の腫れ(腫瘤)を形成せず、血管や血液や骨髄細胞のごく希少な浸潤のみで発症する場合があります。その場合、ランダムに皮膚や骨髄から組織を採取し、組織の中の腫瘍腫細胞を見つけることにより診断されるケースがあります。また白血病においては本解析結果により生命予後予測に大きく寄与する場合もあり、治療内容や方針を決定するうえで非常に重要となります(検査会社に委託)。
腸骨いわゆる腰の骨に局所麻酔を行った後、針を刺して骨髄の組織を調べる検査。検査そのものは外来にて施行可、およそ10分程度で終了いたします。本検査は悪性腫瘍(白血病、リンパ腫、骨髄腫等)のみならず、その他の貧血や血小板減少をきたす疾患の診断にも有用であり、安全に配慮して高齢の患者さんにもなるべく行うようにしています。
PETとは、positron emission tomography (陽電子放出断層撮影) の略で、放射能を含む薬剤を用いる核医学検査の一種です。放射性薬剤を体内に投与し、その分析を特殊なカメラでとらえて全身を一度に画像化します。通常悪性腫瘍や炎症の病巣を特定し、腫瘍の大きさや場所の特定、良性・悪性の区別、転移状況や治療効果の判定、病期(ステージ)検索や再発有無の診断などに利用されています。当院にはこの設備はなく、他院に紹介して検査を受けて戴いています。
白血病や骨髄異形成症候群などの血液の病気や抗がん剤など薬の副作用により赤血球や血小板を造ることができなくなる場合があります。その際には輸血を行います。患者さんの状態にもよりますが、定期的に外来で行う場合や入院治療中に必要に応じて行うなど、その期間と内容は様々です。輸血が必要になる判断は、患者さんの状態に応じてヘモグロビン(Hb)値と血小板数値を確認して行います。ただし、手術や処置を受ける予定がある場合や、すでに出血を伴う状態にある場合には、早期に血小板を補充する必要があります。
以下の治療は当院では施行していません。主に当院との連携関連病院である虎の門病院(港区)または虎の門病院分院(川崎市)に紹介させていただきます
おおよそ65歳以下の多発性骨髄腫や再発難治性悪性リンパ腫の患者さんが対象となります。移植前に前処置といわれる強力な化学療法を行い、腫瘍細胞を根絶させて、その後強い骨髄抑制状態から速やかなる血球細胞の回復を促すために、予め患者さん自身から採取しておいた末梢血幹細胞(凍結保存)を体内に戻すといった方法で行います。
同種造血幹細胞移植は、患者さんの造血幹細胞をドナーの造血幹細胞に入れ替える治療法で、通常の抗がん剤などによる化学療法だけでは治癒率が低いと考えられる白血病やリンパ腫などに対して行われます。骨髄移植、末梢血幹細胞移植、臍帯血移植の3つの方法があります。
2019年から日本でも悪性リンパ腫の再発後の治療にCAR T細胞療法が保険適用され、治療が可能となりました。CART細胞療法は、患者さん自身の細胞(Tリンパ球)を取り出して機能を強化し、体内に戻すという、抗がん剤とは異なるメカニズムの治療です。治療を受けるためにはいくつか条件が必須で必ずしも副作用が軽いという訳ではありません。呼吸器・神経系障害が出現することが多く報告されています。
疾 患 群 | 2020年 | 2021年 | 2022年 | 2023年 | 2024年 | |
(1) | リンパ系悪性腫瘍 | 40 | 46 | 24 | 35 | 36 |
(2) | 骨髄増殖性疾患 | 17 | 21 | 19 | 14 | 22 |
(3) | 骨髄異形成症候群 | 19 | 18 | 14 | 13 | 14 |
(4) | 急性白血病 | 12 | 5 | 10 | 12 | 7 |
(5) | 血小板減少性疾患 | 3 | 14 | 11 | 7 | 8 |
(6) | 多発性骨髄腫とその関連疾患 | 14 | 10 | 12 | 11 | 12 |
(7) | 貧血、ウイルス性疾患、その他 | 26 | 34 | 31 | 56 | 50 |
※ 注釈
(1)その殆どが悪性リンパ腫である
(2)慢性骨髄性白血病、多血症を主とする
(3)多種にわたり、治療法も種類によって異なる疾患です
(4)急性の骨髄性/リンパ性白血病である
(7)再生不良性、溶血性、悪性などの貧血、白血球減少やウイルス感染に伴う血球異常をきたす疾患など
役職 | 副院長・診療部長・血液内科部長 |
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専門分野 | 造血器疾患全般 |
資 格 (専門医等) | 日本内科学会認定内科医・指導医 日本内科学会総合内科専門医 日本血液学会血液専門医・指導医 日本がん治療認定医機構認定医・指導責任者 |
役職 | 医長 |
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専門分野 | 造血器疾患全般の診断・治療 |
資 格 (専門医等) | 日本内科学会認定内科医・指導医 日本内科学会総合内科専門医 日本血液学会血液専門医・指導医 日本輸血細胞治療学会認定医 |
役職 | 非常勤医師 |
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専門分野 | 造血器疾患全般 |
資 格 (専門医等) |